和宇慶勇二が長瀬慎弥を大差の判定で退けて2年3か月ぶり2度目の日本タイトル挑戦を実らせ、日本スーパーライト級新王者となった。和宇慶はガードを固め、サウスポースタンスからの右ジャブでリズムをつくる丁寧な立ち上がり。次第にノーモーションの左へとつなぎ始めた初回終了間際、踏み込んできた長瀬をかわしざまに右フックを痛打。長瀬はごろりとキャンバスに転がった。王者はしばらく倒れ込んだまま動かない。勝負あったか、と思わせるほどのノックダウン。ここは何とか立ち上がり、長瀬が辛くもインターバルに逃げ込みはしたが、序盤の流れはこれで決まった。
「もっと左は当たらないと思ったが、予想以上に当たった。空振りさせられて、駆け引きになると思っていたけど」と振り返ったとおり、和宇慶は長短の左ストレートをタイミングよく、次々と長瀬に見舞った。要所に突き上げる左アッパーも有効で、焦りも見える長瀬が前へ前へとにじり寄っては、和宇慶に跳ね返される展開になる。それでも「(長瀬は)予想以上に頑丈だった。手応えのある左が何度も入ったのに」と和宇慶が舌を巻くタフネスぶりを発揮した長瀬。挽回の取っ掛かりを探して最後まで愚直に和宇慶に迫り続け、終盤に意地を見せたものの、展開を覆すまでには至らず。これが初防衛戦だった王者を挑戦者が捌き切った。
「今日は勝ちに徹した」と和宇慶。前回、2009年8月に小野寺洋介山(オサム=引退)に挑んだ際の「(小野寺は)気持ちが強くて性格も(自分と)合いそうだったし、打ち合いを挑んでしまった。それが敗因だった」(和宇慶)という反省を活かした。担当の高橋智明トレーナーが「倒しに行きたがるのを『判定でいいから』と我々が抑える感じ。もちろん倒せればいいんですけど、打たれ強いわけではないので。(抑えるくらいでちょうどいい?)そうですね」と話したように、生来のハートの強さが新王者の根幹のようだが、高橋トレーナーの助言も受け止め、意識してガードを固めながら最後までクールさを保ち続けたこの日の戦い方が、長身でテクニックもある彼の良さを最大限に活かすのではないだろうか。19戦15勝(7KO)3敗1分。
そして、和宇慶の初防衛戦の相手が翌日の最強後楽園決勝の結果、強打のサウスポー・岩渕真也に決まった。ガードを固めてグイグイと接近する麻生興一に対し、巧く距離を保って対峙していた岩渕は初回半ば、麻生の堅牢なガードの下から強烈な右アッパーを打ち抜く。一瞬あって足をもつれさせ、1回転しながら懸命にバランスを保ち、ロープ際にエスケープを図る麻生を追いかけた岩渕は焦ることなく、後続打を正確にフォロー。最後は右フックで麻生を仰向けに転がし、豪快にフィニッシュした。
インパクトある初回TKO勝ちで、文句なしの大会MVPにも選出された岩渕。最近は、ややパワー偏重の荒々しいファイトが目につき、空振りでバランスを崩すシーンなども見られたが、この日は短い時間ながら、冷静さが光った。花咲徳栄高校でアマ経験もある岩渕はこれで2008年12月1日以来、7連勝(6KO)で通算20戦17勝(14KO)3敗。
この両雄が来春のチャンピオンカーニバルで顔を合わせることになる。国内スーパーライト級で抜けた存在だった亀海喜寛(帝拳)が王座を返上し、後継王者の長瀬は初防衛戦で陥落。戦国時代に突入した感がある。新王者の和宇慶、挑戦権獲得トーナメントを勝ち抜いて、堂々初挑戦に臨む岩渕のサウスポー対決は、当然、岩渕のパンチ力は大きなポイントのひとつとなるが、より自分自身をコントロールできた方が相手も制する、そのようなメンタルが勝敗を分けるカギとなるかもしれない。