「決められるところで、決めようと思った」と6回のフィニッシュシーンを振り返った原。右ボディアッパーで石井が動きを止めたと見るや、すかさず連打で追い込んだ。その姿はことば以上の意思の強さにあふれて、迫力満点。連打の中で、原が相手の嫌がっている右ボディをしつこく狙い打ちすると、最後も同じパンチで上体を丸めた石井を見て、レフェリーが試合をストップした。
鋭い左リードに強烈な左ボディアッパー、タイミング抜群の左フック。これまでの原の印象は、どちらかといえば、左の巧みさだったが、この日の原のボクシングでより目を引いたのが、右を巧く使ったことだ。要所にまじえたショートの右ボディアッパーは、ダメージを与えただけでなく、意識を散らす効果も発揮し、次のパンチへと展開する起点にもなった。さらに「ジャブ代わりに使った」という誘ったり、けん制したりする力の抜けた右、ダメージングブローとしての右を使い分け、終始、石井をコントロール。静から動へと瞬時に切り替わるような瞬間的なスピードも印象的で、余計な被弾もなく、粘り強い石井に対してきっちりとフィニッシュにつなげたのは見事だった。
思わぬアクシデントもあった。1回からシューズの足底が滑り、「思うような動きができなかった」と原。ラウンドを終えた原の訴えに、セコンドが慌てて松ヤニをつけ直したそうだが、最後まで状況は変わらない中でも危なげなく試合を運ぶ辺りは、やはり並みではない?
高校4冠を置き土産に一度はボクシングと決別。高校卒業後は競馬学校に進んでいた。その原が、固い決意とともにプロボクシングの世界に身を投じたのは、一昨年12月のことだった。シューズは、その頃から使い始めたものだったそうで、だから、デビュー以来のすべてのリングをともにしたものだった。擦り切れるまで使い続けたシューズに、本人はそこまでの強い思い入れがあるわけではない様子で、「さすがにもう替えます」と頭を掻くのみだったが、この日のリングをひとつの区切りに「日本ランカーの上位とか、強い相手とやって上に行きたい」と力強く希望する次のリングには、新しいシューズで一歩を踏み出す。