清水が3度目の挑戦で世界タイトルを手にした。試合後、清水の東農大の後輩にあたるWBC世界ミニマム級チャンピオン、井岡一翔の感想を聞いた。やっぱり井岡は聡明だ。彼の言葉は試合の中身を過不足なく表現していると思う。
「清水先輩は途中で弱気になったところがあって、カサレスにうまくごまかされてしまった。それがなければもっと圧勝できた試合だったと思います。ただ、清水先輩も3度目の挑戦でプレッシャーがすごくあったに違いありません。今日は内容うんぬんではなく、勝ったことに大きな意味があったと思います」
同感である。3度目の挑戦であとのない清水は、どんな形であれ勝つしかなかった。そして内容に目を向ければ、もっと大差をつけられた試合だったのではないか、という思いを抱かずにはいられない。カサレスは曲者の試合巧者だけれど、決してAクラスの世界王者ではない。動きを見ていて、コンディションもそれほどよさそうだとは感じなかった。
ジャブを主体とした清水のスタイリッシュなボクシングは、国内のあらゆるボクサーと比較しても、かなりハイレベルだと思う。何より距離感が抜群だ。だから単純に実力を比較すれば、清水の勝つ可能性は十分にあると考えていた。
ただし、それは清水が世界戦という大舞台で本来の力を出せればの話である。清水はタフというイメージからは程遠く、どちらかといえば大舞台に弱いタイプに見える。劣勢に立つと必要以上に弱気になってしまう姿を何度か目にした。内藤大助(宮田)戦で、リードしながら逆転KOされてしまった試合は、その典型と言えるだろう。
不安はやっぱり露呈した。中盤の攻防である。
プレスを強めてきた(といっても襲い掛かる≠ニいうほどの迫力は感じなかった)カサレスに対し、清水は明らかに動揺した。本人はこの場面を次のように振り返っている。
「途中でカサレスに押されたけど、今までの自分だったらダメだったと思う。接近戦の練習をしてきたのがよかった」
ここが勝負の分かれ目だった。カサレスに傾きかけた流れをなんとか食い止めた清水は、前半の貯金を使い果たすことなく辛くも逃げ切りに成功した。
この試合を乗り越え、清水は一回りも二回りも逞しくなったことだろう。ただし、まだまだ心もとない。たとえばカサレスに押し込まれた場面だ。タフなボクサーであれば、たとえ心の中で「ヤバイ」と思っても絶対に顔には出さない。勝負強い選手とはいたずらに弱みを見せないのである。
試合翌日の記者会見で口にしたセリフもちょっと気になった。
「試合のあとはすべて出し尽くして疲労困憊で…。病院に行って点滴を打ってもらいました。気が弱い子なので…」
冗談めかした発言とはいえ、初防衛戦で対戦がささやかれる亀田大毅(亀田)のニヤリとした顔を思い浮かべると「清水、大丈夫なのかあ〜」と心配になってしまう。
悲願の世界タイトルを獲得したというのに、なんだか苦言めいた原稿になってしまった。最後に清水の力強い言葉を紹介しておこう。
「僕はボクシングは芸術だと思っているので、これからはスタイリッシュなボクシングでファンを魅了していきたいと思っています」
頼むぞ〜、ホントに!