5月某日。川崎新田ジムを取材に訪れた際、ジムのご好意でトレーニングをさせてもらった。着替えと靴(バスケットマン渋谷の場合はバッシュ)を持参。まずはコーチ役の山口裕朗くん(カメラマンにして元A級プロボクサー=ぐっち)からバンテージの巻き方を教えてもらう。が、いろいろな巻き方があるらしく、結局よくわからなくなって最後は適当にぐるぐると巻いた(これがあとで困った結果を招く)。
ストレッチと体操を終えたらボクシング教室のスタートだ。まずは構え。ヒザを軽く曲げ、肩の力を抜き、手を前に出しやすい位置に構える。重心はまん中。上半身が前傾したり、反ったりしてはいけない。ぐっちは私を真っすぐ見据え、こう教えてくれた。
「いいですか。身体の中心に玉金がぶらさがる感じです。こうですよ」
そう言いながら体を上下に軽く動かす。なるほど、バランスがいい。頭のてっぺんから真っすぐ垂らした糸の先に玉金がぶら下がっているような気がしてくる。ちなみにぐっち。女性への指導方法は「知らない」そうだ。
構えができたらジャブ。パンチを打つ方向に対して体を45度傾け、左脚を前に出すと同時に左拳を突き出す。斜めに構えてパンチを出すのが難しい。どうしても身体が正面を向いてしまいがちだ。さらに右ストレート、ワンツーと駆け足で教えてもらう。
ワンツーの要領は次の通り。
「ジャブを出したときに弓を引くように右拳を引いておく。弓を思いっきり引いて、強い右ストレートを打ってください!」
今度は美しい例えだ。
ワンツーまで教えてもらったら、あとはグローブを借りてサンドバッグを打ってみた。20分もするとTシャツはぐちゃぐちゃ。予想とは違い、腕よりも足へのダメージが大きい。疲れたので勝手に休むと、ぐっちの大きな声が飛んできた。
「まだ3分たってませんよ!」
「もう少し力を込めて打つ!」
「そう、そのパンチです!」
こう目の前で一生懸命指導されるとかなり休みにくい。しょうがないから少しがんばってみた。周りで練習している選手(しかもこの日はプロだけ)が何人もいて、迷惑をかけてはいけないと思っていたけれど、周囲を気にする余裕はいつの間にか失せていた。
練習を続ける。今度は手が痛くなってくる。サンドバッグは固くて重い。拳に体重を乗せてパンチを打つと、バッグを叩く瞬間に手首がグニャッと曲がるのだ。バンテージをしっかり巻かなかったのが良くなかったらしい。さらにバンテージが汗を吸い、指の付け根に食い込んで痛い。
そろそろ帰ろうかと思い始めたころ、助け舟を出すかのように「ミット打ちをしましょう」とぐっち。ミットを受けてくれたのは何と新田会長だった。
サンドバッグを叩いたあとのミット打ちはかなり気分がいい。何といっても痛くない。「パーン!」と心地よい音が響き渡る。多少変な方向にパンチを出しても、新田会長がパンチに合わせてミットをうまく動かしてくれるので、打ち損じも少ない。「あれっ、本当に初めてですか? だったらかなり筋がいいですよ!」。こういうセリフはたとえお約束であってもうれしいもの。楽しい気分で練習を終えることができた。
実はボクシングの練習、初めての経験ではなかった。もう20年前のこと。大学のサークルに友人と冷やかしで参加し予定通り1ヶ月で辞めた。さて、次はいつにしよう。また20年後。いや、たまにやってみるかな…。