こんにちは。
JBC日本ボクシングコミッション・リングアナ、
メンタルトレーナーの須藤尚紀です。
少し間が空いてしまいましたが、4回目の今回は、
メンタル・コントロールで勘違いしやすいポイントに触れてみます。
私が所属するJBC(一般財団法人日本ボクシングコミッション)試合役員会の教訓の中にこんな一文があります。
「反省しても後悔するな」
なるほど…と、頷ける教訓です。
が、ことばがそのまま一人歩きすると、大きな勘違いに至る恐れがあります。
これは一見、
「反省」を肯定し、
「後悔」を否定している、
…かのように読めてしまいますが、
「反省」も「後悔」も肯定している、ことに気付かなければなりません。
私の授業では、誤解のないようにこんなことばにしています。
「後悔で終わるな、反省しろ」
つまり、
「反省」するために「後悔」は必要な要因なのです。
「後悔」せずに「反省」はできないからです。
実は、このことを身をもって教えてくれた男がボクシング界にいます。
彼は、ジムのトレーナー。
試合では、リングサイドから目を光らせ、選手を見守り、サポートするセコンドです。
試合が終わると彼は屈託のない笑顔で私に近づいて来ました。
そして、無難に挨拶してくれるところまでは特筆に当たりませんが…
ここから先が、一癖も二癖もありました。
毎回あれこれ試合内容について質問を浴びせてくるのです。
おそらく私だけではなかったと思います。
話してくれる相手を見つけては声を掛け、問い掛け、時には愚痴り、時には自慢し、何か自分の気持ちを整理しているかのようにも見えました。
正直なところ、多少面倒くさい時もありましたが、彼の求心力でしょう…屈託のない笑顔にいつも引き込まれて話し込んでしまいました。
出てしまった結果をグチグチ、クドクド振り返る姿を、最初は、未練たらしい後ろ向きな姿だと思っていましたが、やがて考え方が変わりました。
実は彼は、至って前向きでした。
感覚が鈍る前に、とことん振り返り、次の為に、新たなやり直しをその場で組み立てているのだ…と。
つまり、その場でとことん後悔することで、素早く次への反省につなげているのだ…と。
「鉄は熱いうちに打て」という作業を、彼は実践していました。
特に心の教育には「ライヴ感」は有効です。現場で感じることがいかに大切かを彼は知っていました。
ジムに持ち帰って翌日以降に振り返る反省は鮮度のないもの。効果は数割レベルで落ちます。
また、その場にいない人には、その場での感動を、欠かすことなく、ことばや映像で伝えるのは、残念ながら不可能です。
現場にいる者として、責任を背負った姿でした。
彼とは、のちに映画の仕事でご一緒させてもらえました。
アクション監督として、ボクシング・シーンを指導していました。
そこでも彼は同じでした。
1カット撮り終わる度に、
「須藤さん、いまのどう?」
「こうした方が良かったかな…?」
不思議とそれは、決して消極的な姿には見えませんでした。
むしろ、決意と自信に満ち溢れ、楽しそうに見えて、現場のムードが高まってさえいることに気付きました。
彼のおかげで、私は指導方針が向上したと、感謝しています。
かつてはクヨクヨしている生徒には、
「クヨクヨするな…後悔しても仕方ないだろ、次のことを考えろ」
と、言ってしまっていましたが、掛けることばが変わりました。
「いいぞ、とことんクヨクヨしろ…忘れるな、その悔しさがこれから一生の宝物だ」
皆さん、クヨクヨすることは必ずしも後ろ向きなことではないですよ!
そんな大切なことを私に教えてくれた彼は、メンタルトレーニングについては正式に学んではいませんでしたが、実践している内容は質の高いメンタルトレーニングになっていました。
選手や俳優、作品に賭ける彼の実直さが為せた業(わざ)です。彼の天性の才能に敬服します。
知る人ぞ知る
彼の名は、梅津正彦。
去る7月23日に44歳の若さで早逝しました。
今日は彼の新盆です。
亡くなる2週間前の7月7日、彼から私への最後のことばになってしまいました…
「もっと須藤さんと話したいよ、力が湧いてくるよ…」
こんな嬉しいことばを残してくれました。
もっともっと彼と話さなかったことを、私は一生、後悔する事になりました。
『後悔で終わるな、反省しろ』
勝利は、練習の成果
練習は、反省の成果
反省は、後悔の成果
後悔は、敗北の成果
敗北で終わるな
後悔で終わるな
反省で終わるな
練習で終わるな
合掌
2013年8月15日