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5月19日 東京・後楽園ホール 東洋太平洋&日本スーパー・ウェルター級タイトルマッチ |
東洋太平洋・日本スーパーウェルター級王者
(八王子中屋) チャーリー太田
ちゃーりー・おおた |
12回戦 |
挑戦者日本2位・東洋太平洋6位
湯場 忠志 (都城レオ)
ゆば・ただし |
1981年8月24日/米国 |
生年月日/出身地 |
1977年1月19日 |
7戦7勝 |
アマ戦績 |
なし |
2006年5月28日 |
プロデビュー |
1996年4月14日 |
18戦16勝(11KO)1敗1分 |
プロ戦績 |
45戦37勝(28KO)6敗2分 |
右ボクサーファイター |
タイプ |
左ボクサーファイター |
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昨年9月以来の再戦。第1戦では王者のチャーリー太田が判定勝ちを収めた。まずは筋骨隆々の黒人ボクサー、チャーリーを紹介しよう。
チャーリーがボクシングを始めたのは04年、海軍を除隊して日本人女性と結婚し、日本に住み始めてからだ。デビューが2006年だからキャリアは浅く、ダイエット目的でボクシングを始めたからなのか、最初のころは鈍重なイメージしかなかった。だから09年年3月に柴田明雄(ワタナベ)の持つ日本&東洋太平洋タイトルに挑戦したときも、どちらかと言えば柴田が有利だろうと見ていた。結果は8回KO勝ち。この試合のチャーリーは、いくらパンチをもらっても動じない打たれ強さと、パワフルな攻撃力が印象的だった。
チャーリーの強みは、キャリアがないだけに、伸びシロのあるところ。先を急がず、じっくり丁寧に選手を育てる八王子中屋ジムのスタイルがも幸いしたのだろう。最近の試合を見ても、柴田戦より初防衛戦、初防衛戦よりも湯場との第1戦、といった具合に試合ごとに成長を感じさせている。
湯場戦では、相手をうまく誘い出したり、左ストレートをもらわないポジションをキープしたりと「なかなかうまいな。したたかになってきたな」と思わせるボクシングを披露した。
さて、宮崎の伊達男、湯場である。圧倒的な強打を有するこのサウスポーは、いつも我々の心を期待と不安で激しく揺さぶってくれた。ほれぼれするようなKO勝利を目にするたびに「この才能をぜひとも世界の舞台で見たい」と切望し、一方であっさりと敗れ、「何てもろいんだ…」と絶句した試合も一つや二つではない。ちなみにここ20戦の戦績は16勝4敗。16勝のうち13勝がKO勝利で、4敗のうち2敗がKO負け。湯場の試合はいつもハラハラドキドキでスリリング。長年観戦してきた者として、これだけは保証しよう。
そんな反省を生かしてか、チャーリーとの第1戦、湯場はかなり慎重に戦ったと思う。体格差(湯場の身長は183p。チャーリーは168p!)を生かそうと十分に距離を取り、あらゆる手を使ってチャーリー攻略を試みた。その結果がフルラウンド戦っての判定負けである。力を出し切れなかったという印象はないだけに、第1戦と違うシナリオを描くのはなかなか難しそう。29歳のチャーリーが登り坂なら、34歳の湯場は残念ながら下り坂の選手。スピードの衰えも感じられ、なおかつ小柄な選手は苦手ときているから、順当にいけば6−4くらいでチャーリー有利の試合だろう。
ただし、チャーリーが無難に勝てるかと言えば、そこまで力の差はない。何しろ湯場には1発で試合を終わらせることができる左ストレートという武器がある。4月9日、海の向こうでは35歳の石田順裕(グリーンツダに移籍予定)が27勝(24KO)無敗のホープ、ジェームズ・カークランド(アメリカ)をぶっ倒すという大番狂わせで、ラスベガスのファンの度肝を抜いたばかりだ。この試合に日本初の4階級制覇をかける34歳の奮起に期待したい。 |
(文/渋谷淳) |
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5月18日 東京・後楽園ホール 東洋太平洋スーパーフライ級王座決定戦12回戦 |
東洋太平洋・日本スーパーフライ級1位
(横浜光) 赤穂 亮
あかほ・りょう |
VS |
東洋太平洋スーパーフライ級2位
フレッド・マンドラビー (豪州)
Fred Mundraby |
1987年7月2日/栃木県 |
生年月日/出身地 |
1987年11月18日 |
5戦3勝(1KO・RSC)2敗 |
アマ戦績 |
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2005年2月6日 |
プロデビュー |
2006年1月27日 |
17戦15勝(9KO)2分 |
プロ戦績 |
13戦12勝(6KO)1分 |
右ボクサーファイター |
タイプ |
右ボクサーファイター |
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次期チャンピオン候補として注目されてからずいぶん時間が過ぎてしまったが、赤穂亮にようやく2度目のチャンスがめぐってきた。最初の挑戦は2009年12月に遡る。当時WBC4位にいた日本チャンピオン・中広大悟(広島三栄)に挑まんと敵地・広島に乗り込み、引き分けた。後半猛追し、「たくさんの人から”勝っていたよ”と言われたけれど、ぶっ倒しにいってぶっ倒せなかったのだから仕方がない」と、本人は述懐する。それから1年半。中広―赤穂戦を客席に座って見ていた佐藤洋太(協栄)はその間に、中広負傷療養中に翁長吾央(大橋)との暫定王座決定戦を制し、中広との統一戦ではダウンを奪う圧倒的大差の判定勝ち。今では風格すら漂う盤石の日本チャンピオンとして世界ランクもA・Cともに5位にいる。かつては自分より下位にいた男の大躍進を横目に日本・東洋太平洋1位の座に甘んじてきた赤穂にとって、今回のタイトルはどうしても取りこぼすことはできないはずだ。相手のフレッド・マンドラビーについてはあまり多くの情報がないが、アマ出身で、Boxrecによれば2006年1月の”プロデビュー戦”で空位のクイーンズランド州フェザー級王座を獲得している。その後は同州バンタム級王座、豪州バンタム級王座、同スーパーフライ級王座と、無敗のままタイトルをコレクションしてきた。映像で見る限り、左ジャブが軸のオーソドックスなボクサーファイターのようだが、クリンチワークなどで相手の攻撃を寸断するのが上手い。そんなオーストラリア人と向き合いながら赤穂が集中力を途切れさせることがなければ、スピード、キレ、パンチ力ともに上回るであろう赤穂がポイントを奪っていきそうだ。自らが「感性のボクシング」と呼ぶ赤穂のスタイルは一見奔放に見えるが、そのベースには高校時代から培った技術がある。待ちに待ったタイトルマッチで、その高いポテンシャルが発揮できるかどうかに注目したい。 (文/宮田有理子)
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5月17日 東京・後楽園ホール WBA女子世界スーパーフライ級タイトルマッチ10回戦(2分) |
WBA女子世界スーパーフライ級チャンピオン
(山木) 天海 ツナミ
てんかい・つなみ |
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挑戦者
ベッチサイルーン・ルークサイコンディンPetchsairung Looksaikongdin(タイ) |
1984年8月13日/沖縄県 |
生年月日/出身地 |
1989年9月20日/タイ
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なし
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アマ戦績 |
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2008年5月18日(公認前2005年6月12日) |
プロデビュー |
2007年10月23日
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7戦7勝(2KO)(20戦17勝6KO3敗) |
プロ戦績 |
10戦1勝9敗 ※BOX REC |
右ボクサーファイター |
タイプ |
右ファイター |
天海ツナミが2009年2月26日に獲得したタイトルの4度目の防衛戦を迎える。
前回の防衛戦は昨年12月。実力者の藤本りえ(協栄=引退)をまったく寄せつけず 、一方的な8回終了TKOで退けた。藤本戦は、天海のこれまでのキャリアの中でも出色のパフォーマンスのひとつだったのではないだろうか。高校までは、女子 サッカー選手として活躍した生粋のアスリート。運動能力の高さには定評がある 。
充実の王者が今回、迎える相手はしかし、大きく負け越した戦績といい、挑戦資格に疑問符をつけざるを得ない。それでも、決まった以上は実力差どおりの内
容でしっかりした勝ち方を見せることが、天海のやるべきことだと言える。挑戦者のペッチサイルーン・ルークサイコンディンは昨年9月、当時の東洋太平洋女子スーパーフライ級王者、山口直子(白井具志堅)の2度目の防衛戦の相手として来日。強打の山口の前に、あえなく3ラウンドで散っている。その山口は今年1月、
敵地・メキシコで7度防衛中のWBC女子世界スーパーフライ級王者、アナ・マリア ・トーレスに挑戦し、結果こそ大差の判定負けで天海の対抗王者の座にはつけなかったものの、果敢なファイトぶりで現地でも評価を高めた。好むと好まざるとにかかわらず、6月6日に再起戦を控える国内のライバルとの比較の目にもさらされることだろう。そして、アルゼンチンには暫定王者のカロリーナ・グティエレスだっている。天海が、王者として真にやるべきことはまだ先にある。 |
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5月16日 東京・後楽園ホール 日本ライトフライ級王座決定戦10回戦 |
WBC世界ライトフライ級9位・WBA同11位
(レイスポーツ) 家住 勝彦
いえずみ・かつひこ |
VS |
日本ライトフライ級1位
黒田 雅之 (川崎新田)
くろだ・まさゆき |
1980年6月15日/東京都 |
生年月日/出身地 |
1986年7月17日/東京都 |
なし |
アマ戦績 |
3戦1勝2敗 |
1997年11月14日 |
プロデビュー |
2005年5月31日 |
40戦29勝(19KO)8敗3分 |
プロ戦績 |
21戦18勝(12KO)3敗 |
右ボクサーファイター |
タイプ |
右ボクサーファイター |
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今年2月、日本プロボクシング史上最短記録となる7戦目でWBC世界ミニマム級タイトル奪取に成功した井岡一翔(井岡)が返上後、空位になっていた王座の決定戦。
前・東洋太平洋ライトフライ級チャンピオンでWBC世界同級9位の家住勝彦は、デビュー14年目で40戦のキャリアを誇る30歳のベテラン。昨年6月14日、20代最後の日に迎えた若き気鋭の日本ライトフライ級チャンピオン、宮崎亮(井岡)との双方のベルトを賭けた大一番で、8ラウンドTKO負けを喫して3度目の防衛に失敗し、36戦目にしてようやく手にした虎の子のベルトを失った。家住にとって再起2戦目で迎えるこのタイトルマッチは、背水の一戦とも言える。
2006年の全日本ライトフライ級新人王で、MVPにも選出された日本同級1位の黒田雅之は、所属の川崎新田ジムとしても初のタイトルマッチとなる6年目の24歳。新人王獲得後、2敗を喫してはいるが、これは、決して安易なマッチメークだけで、この日にたどり着いたわけではないからこそ。敗戦もバネに、堅実にキャリアを積み重ね、6連勝で大舞台に臨む。
両者を比較すると、そのキャリアの豊富さとボクシングの幅の広さで、家住が一歩上回っていると、まずは言わなくてはならない。ただし、この試合の勝負を分ける最大のポイントは、黒田の軽量級離れした強打と、家住の打たれもろさの組み合わせが展開にどう作用するか、ということになるだろう。
単純なパンチ力というだけでなく、ツボにはまった瞬間のカウンターに才能を感じさせる黒田。ただ、その“瞬間”を自ら導き出すまでの組み立ての部分に、やや難がある。だが、今回は決定戦とはいえ、黒田は挑戦者の姿勢で臨むはず。小柄な家住と長身の黒田の組み合わせで、物理的な距離の優位性という面では黒田の方に分があるが、考え過ぎず、家住に圧力をかけ続けて打ち合いに持ち込むことで、黒田の勝機は大きく開けてくるように思える。
黒田の強打は織り込み済みの家住としては、リスクを冒さず、持ち味の機動力を存分に発揮して出入りし、黒田に的を絞らせたくないところ。しかし、家住にも黒田に劣らぬパンチ力とカウンターの閃きがあり、元来が打ち合いを好む気質でもある。
スリリングな展開になる可能性を大いに秘めたこの一戦。軽量級らしいスピーディな攻防の果てに、どのような結末を迎えるのか。開始から目を離すことはできない。 |
(文/船橋真二郎) |
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5月16日 東京・後楽園ホール 東洋太平洋女子フライ級タイトルマッチ10回戦(2分) |
東洋太平洋女子フライ級チャンピオン
(フラッシュ赤羽) 四ヶ所 麻美
しかしょ・あさみ |
VS |
挑戦者1位
真道 ゴー (クラトキ)
しんどう・ごー |
1979年10月17日/東京都 |
生年月日/出身地 |
1987年7月18日/和歌山県 |
25戦22勝3敗 |
アマ戦績 |
なし |
2008年5月9日 |
プロデビュー |
2008年5月25日 |
6戦5勝(3KO)1敗 |
プロ戦績 |
:8戦7勝(6KO)1敗 |
右ボクサーファイター |
タイプ |
右ボクサーファイター |
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coming soon... |
四ヶ所麻美の東洋太平洋女子フライ級王座3度目の防衛戦。関西のホープ・真道ゴーの後楽園ホール初登場ということでも注目される。同時に、WBC世界同級4位にランクされる四ヶ所と、同6位にランクされる真道との国内女子フライ級トップ対決という図式は、勝った方が世界挑戦をアピールすることになるサバイバル戦とも言える。
挑戦者の真道。デビュー戦で、後の世界タイトル挑戦者になる秋田屋まさえ(ワイルドビート)に敗れた後、7勝6KOの好戦績を残し、評価を高めてきた。現在、関西にある女子のベルトは、多田悦子(フュチュール)が保持するWBA女子世界ミニマム級のただ1本のみ。そういう意味でも、真道としては、関西初となる東洋太平洋のベルトを持ち帰らんと、意欲にあふれて敵地に乗り込んで来るだろうし、日本ボクシングコミッション(JBC)公認(2008年5月9日)後、まだ歴史の浅い女子ボクシングの普及という観点からも、関西圏での活性化につながることが期待される、意義のある戴冠となる。
アマ25戦で全日本女子アマチュア大会5連覇後、JBC公認と同時にプロに転向し、一昨年10月、4戦目でこのベルトを手にした四ヶ所。世界タイトルをキャリアの集大成としても位置づけているはずで、そう簡単に足掛かりとなるベルトを明け渡すわけにはいかない。昨年12月の2度目の防衛戦では、張有珍(韓国)を危なげなく9ラウンドTKOで下したが、消極的な挑戦者に対して、やや淡々とラウンドを重ねた印象だった。試合後、「来てくれた方が感動する試合をしたい」と反省も踏まえて語っており、これがプロとして自らに課したもうひとつの使命だ。願ってもない挑戦者を迎え、腕を撫していることだろう。
いずれにせよ、両者ともに好戦的なタイプ。ベテランと若手の東西対決は、打ち合い必至の激戦が予想される。 |
(文/船橋真二郎) |
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5月8日 東京・後楽園ホール WBC女子世界ライトフライ級タイトルマッチ10回戦(2分) |
WBC女子世界ライトフライ級チャンピオン
(ワタナベ) 富樫 直美
とがし・なおみ |
VS |
挑戦者11位
ジュジース・ナガワ (フィリピン)
Jujeath Nagaowa |
1975年7月31日/東京都 |
生年月日/出身地 |
1987年9月5日/フィリピン・バギオ |
20戦16勝4敗 全日本2度優勝 |
アマ戦績 |
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2008年5月9日(公認前2007年11月17日) |
プロデビュー |
2006年5月18日 |
8戦7勝(3KO)1分(公認前含む9戦8勝4KO1分) |
プロ戦績 |
19戦9勝(5KO)9敗1分 |
右ファイター |
タイプ |
右ボクサーファイター |
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未曾有の大震災によって延期となったWBC女子三大世界戦が、ふた月の時間を経て挙行される。
その大イベントのトリを飾るのが、2010年度年間最高女子選手賞に選ばれた女子トップボクサー富樫直美だ。彼女にとっては2年ぶりのホームタウン・東京での戦いでもある。昨年は4月にタイで暫定王者ノンムェイ・ゴーキャットジムとの王座統一戦で判定勝ちを収め、10月にはメキシコで1位のイルマ・サンチェスとの指名試合をこれも明白な判定で撃退。男女含めて史上初の二連続海外防衛を達成し、実力のほどを証明してきた。そして今回、地元のリングで「タイとメキシコで自分が感じ、経験してきたことをやっとみんなに見てもらえる」と発奮する。相手に迎えるジュジース・ナガワはWBC世界ライトフライ級11位。昨年8月に世界ランカーの花形冴美を判定で破った選手といえば、その姿を思い出すファンもいるだろう。その後はWIBF・WIBAのライトフライ、WBOミニマムの王座挑戦に連敗。今回が通算4度目の世界挑戦となる。身長152pながら左ジャブを長く伸ばし、前に出てくるタイプで、タイミングのはかり方が上手い。ボディ打ちも巧い。しかしおそらく、この充実の絶頂にいるチャンピオンの牙城は崩れまい。勝利への執着心を体現する前進力、手数が富樫の真骨頂だが、海外での防衛戦を重ねる中で、出ても引いても優位をアピールする術を体得してきた。「今回は、ファイターじゃない姿も見てほしい」。6度目の防衛戦を前に、35歳のチャンピオンはそう語る。敵地での逆境を乗り越えてさらに厚みを増した富樫直美の戦いを、まばたきも忘れて堪能したい。
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(文/宮田有理子) |
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5月8日 東京・後楽園ホール WBC女子世界アトム級タイトルマッチ10回戦(2分) |
WBC女子世界アトム級チャンピオン
(青木) 小関 桃
こせき・もも |
VS |
挑戦者13位
クリカノック・アイランドムエタイ (タイ)
Krikanok Islandmuaythai |
1982年7月31日/長野県 |
生年月日/出身地 |
1984年1月21日/タイ |
全日本女子選手権優勝4度 |
アマ戦績 |
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2008年5月9日 |
プロデビュー |
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8戦7勝(2KO)1分(公認前含む13戦10勝2KO2敗1分) |
プロ戦績 |
7戦6勝(4KO)1分 |
左ボクサーファイター |
タイプ |
右ボクサーファイター |
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5月3日の公開練習で、小関の表情はいつになく明るかった。「この2ヶ月間、非国民と呼ばれる覚悟でボクシングに集中しようと努め、そして間違いなく成長できたと実感できるんです」と、6度目の防衛戦に向かうチャンピオンは語る。
この試合、3月に行われていたら小関は準備は十分とは言えなかっただろう。当初、指名挑戦者として迎えるはずだった大国アメリカのベテランステファニー・ダッブスが交通事故でキャンセルとなり、試合1ヵ月前を切ってクリカノックが代役に選ばれたのである。百戦練磨の米国人を想定してハードワークに取り組んできたチャンピオンにとって、切り替えはそう簡単ではなかったはずだ。だから震災によって延びた時間、「今の自分にできることは、いい試合をすることと言い聞かせて」練習に打ち込んだ。そして今は「どんな相手がきても対処できる引き出しができた」と、頼もしい。なにしろこの再軽量級のチャンピオンは、今回の試合でどうしても名誉挽回したいのだ。「前回の結果をずっとひきずっていたけれど、この大きなイベントに向けて正月返上で練習してきた。相手が代わっても自分の気持ちは変わらない」小関は、2月の記者発表の席でこう語っている。前回の結果とは、昨年12月、秋田屋まさえ(ワイルドビート)とのV5戦が負傷ドローで終わったことを指す。バッティングによる秋田屋の負傷で3回終了時に試合が止められた時、小関はまるで敗者のようにうなだれた。そんな消沈したV5の後、修行者のような練習を再開し、「体を追い込むことで気持ちを楽にしてきた」のである。タイからやってくるクリカノックは、豊富なムエタイキャリアを持ち、国際式転向後は無敗を誇るホープ。そんな挑戦者を迎え、無尽蔵のスタミナとそれに裏打ちされた手数が持ち味の痩身のサウスポーは、今回こそ自分が理想とする「相手をきりきり舞いさせて、圧倒的な勝利」を実現したいと意気込む。 |
(文/宮田有理子) |
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5月8日 東京・後楽園ホール WBC女子世界ストロー級(ミニマム級)タイトルマッチ |
WBC女子世界ストロー級チャンピオン
(メキシコ) アナベル・オルティス
Anabel Ortiz |
VS |
東洋太平洋ストロー級王者 挑戦者3位
藤岡 奈穂子 (竹原&畑山)
ふじおか・なおこ |
1986年7月5日/メキシコ |
生年月日/出身地 |
1975年8月18日/宮城県 |
130戦127勝(52KO・RSC)3敗 |
アマ戦績 |
23戦20勝3敗 |
2007年1月12日 |
プロデビュー |
2009年9月15日 |
14戦13勝(5KO)1敗 |
プロ戦績 |
5戦5勝(3KO) |
右ボクサーファイター |
タイプ |
右ボクサーファイター |
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この興行に出場するすべての選手が、3月11日に起きた大地震・津波に特別な思いをもって延期の時間を過ごしてきたはずだが、宮城県出身の藤岡はことさらである。計量後、食事をしてジムへ戻る車の中で地震に遭遇した藤岡は、それが宮城県沖で起きたことを知った瞬間から両親に電話をし続けた。が、つながらない。ようやく無事が確認できたのは夜中の二時だったという。それ以来、すぐにでも地元に戻りたい気持ちや「今は藤岡さんの試合だけが楽しみだから」という後援者の言葉をエネルギーに換え、2ヶ月延びた世界初挑戦に向けて練習に打ち込んだ。「3月の時点では、試合決定からあまり時間がなくて、正直、気持ちがついていっていなかった。でも延びたことで体も気持ちも準備できるし、勝たなければならないという気持ちがより強くなった」。
一方のチャンピオン。昨年9月に後楽園ホールで菊地奈々子を圧倒し、本場の技巧を披露したオン、アナベル・オルティスにとっては、これが2度目の防衛戦である。家族は余震や放射能の影響を心配しながらも、再びの日本遠征を許してくれたという。5月2日に再来日し、「被災された方にお見舞いを申し上げたい。私たちボクサーができるのはボクシングだけ。この三大世界戦で元気を与えられれば」というチャンピオンは、「前回以上にいい試合ができると思う」と自信をのぞかせる。短躯ながら長いジャブを前に出して懐深く構え、重いパンチを当てては引くヒットアンドランが大得意。そんな24歳のボクサーファイターは、アマチュア時代から国内無敵を誇ってきた35歳のチャレンジャーにとっても、ひじょうに高いハードルである。藤岡の魅力は元トップアマらしい確固たるベースの上に築いた攻撃力。多彩なジャブを突いてタイミングをはかり、カウンター、ラッシュと畳みかけていく姿が頼もしい。チャンピオンの手練の技をやりすごし、持ち前の右カウンター、力強い左フックが当たれば…試練を乗り越えようと力強く生きる地元宮城の人々に、チャンピオンベルトを持ち帰ることができるかもしれない。 |
(文/宮田有理子) |
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5月8日 東洋太平洋女子ライトフライ級王座決定戦10回戦(2分) |
東洋太平洋女子ライトフライ級1位
(ワールドスポーツ) 柴田 直子
しばた・なおこ |
VS |
東洋太平洋女子ライトフライ級3位
江畑 佳代子 (ワタナベ)
えばた・かよこ |
1981年4月4日/東京都 |
生年月日/出身地 |
1976年1月7日/東京都 |
19戦12勝7敗 |
アマ戦績 |
17戦14勝3敗 |
2008年11月19日 |
プロデビュー |
2009年2月26日(公認前2007年11月19日) |
7戦6勝(3KO)1敗 |
プロ戦績 |
4戦2勝(2KO)2敗(公認後含む6戦3勝2KO3敗) |
右ボクサーファイター |
タイプ |
右ボクサーファイター |
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東洋太平洋ライトフライ級1位の柴田直子と同級3位の江畑佳代子が、前王者・菊地奈々子(白井具志堅スポーツ)の引退により空位となった王座をめぐって、火花を散らす。この二人、アマチュア時代に三度手合わせして江畑が全勝。柴田にとってはプロのリングでやっとめぐってきたリベンジのチャンスなのである。柴田はこれが、昨年12月に藤岡奈穂子が保持していた東洋太平洋ミニフライ級王座への挑戦に失敗して以来の再起戦にして、2度目のタイトルマッチとなる。対江畑という特別のモチベーションもあり、「どうしても気合いが入りすぎて、抑えるのが大変だったくらい」という。一方の江畑は、世界、地域王座をあわせると今回が5度目のタイトル戦。こちらは昨年5月のWBA世界スーパーフライ級チャンピオン、天海ツナミに敗れて以来10ヵ月ぶりのリングだ。再起を決めたのは、「自分本来の階級で世界戦を戦いたい」という思いからだ。ともにジャブ、ワンツーを軸に組み立てるボクサーファイター型。キャリアでは圧倒的に江畑が上回るが、柴田は藤岡には力負けしたものの、優勢劣勢にかかわらず冷静沈着で、スピード、コンビネーションの彩り、右カウンターの巧さではベテラン江畑をしのぐものがある。まもなく三十路に入る世界ランカーがリベンジを果たし、これをさらなる高みへの足がかりとするのか、大ベテランが悲願のタイトルを手に入れるのか--戦いの行方を見届けよう。 |
(文/宮田有理子) |
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5月7日 東京・後楽園ホール ライト級8回戦 |
日本ライト級12位
(角海老宝石) 土屋 修平
つちや・しゅうへい |
VS |
打馬 王那 (ワタナベ)
だば・おな |
1986年9月20日 |
生年月日 |
1982年1月18日 |
愛知県 |
出身 |
モンゴル |
なし |
アマ戦績 |
なし |
2009年7月13日 |
プロデビュー |
2007年12月3日 |
9戦9勝(9KO) |
プロ戦績 |
10戦8勝(4KO)1敗1分 |
右ボクサーファイター |
タイプ |
右ファイター |
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底知れないポテンシャルを感じさせる大型新人だ。昨年の東日本新人王決勝、全日本新人王決勝で、いずれも文句なしのMVPに選出された土屋修平である。これまでに残した戦績は9戦9勝(9KO)とパーフェクト。しかも、そのすべてを2ラウンド以内で終わらせ、そのうち2度まで、対戦相手のアゴを砕いている。だが、決してイケイケのパワーヒッターではない。鋭敏な感覚と、しなやかな攻防技術で豪快なKOシーンを生み出す、言わば“本物”である。
注目を一身に集めた全日本新人王決勝直後の会見でのコメントを基に、土屋の足跡を辿ってみたい。
土屋はボクシングについて「競技として完成されているし、レベルの高い駆け引き、クオリティの高い攻防ができる」と語る。高校時代は空手と並行して、ラグビー部に所属。「試合だけ出るっていう感じ」で司令塔のスタンドオフをこなし、「一度もケガしたことがない」という運動能力の持ち主でもある。プロの格闘家を志し、高校卒業後、上京。キックボクシングのリングで13戦(8勝4KO4敗1分)したが、本人曰く「しょうもない奴に負けて」。見切りをつけた。そして、「このまま腐りたくはなかったから」と、道を求めたのがボクシングだ。
都内のボクシングジムを片っぱしから見て回った。ある日、豊島区大塚の角海老宝石ジムを外から覗いていた土屋は、ひとりのトレーナーから声をかけられる。「お前、何かやってるだろ?」。素性を明かすと「今度、試合を見に来いよ」と、その眼光鋭い男からチケットを渡された。それが、元WBA世界ライト級チャンピオン・小堀佑介(角海老宝石=引退)など、数多のチャンピオンを育て上げた名伯楽・田中栄民トレーナーとの出会いであり、新たな挑戦へと踏み出す第一歩になった。
「今、思えば、教えてくれる人がいなかった」と、キック時代を振り返る土屋。これ以上ない名トレーナーを得て、メキメキと力をつけていく。「バランスがいい。パンチのスピードもある。見た目も頑丈そうだし、ボクシングに必要なものが結構、揃っている」。田中トレーナーが練習を始めた頃の土屋に抱いた印象だ。それから、練習を重ね、試合を重ねるうち、土屋にはその資質を最大限に活かす能力が備わっていることを知る。「作戦を立てても、実行できない選手はたくさんいる」中、作戦を受けて、土屋は「相手をしっかり見て、自分でその瞬間を判断して、体を動かすことができる」。トレーナー冥利に尽きるというものだろう。特に田中トレーナーには、試合の中で相手の攻めどころを瞬時に見極め、的確な助言を送って結果につなげた例が、知る限りでも幾つもある。
さて、その土屋と対する打馬王那である。過去に、新人王トーナメントに2度、挑戦。1度目は準決勝で敗退し、2度目はケガで途中離脱した。これが初めての8回戦のリングになるのは同じでも、両者の力には大きな隔たりがあると言わざるを得ないだろう。ただ、ボクシングでは何が起こるかわからない、というありきたりな言葉によらなくとも、来日後にボクシングを始めたこのモンゴル人選手を相手にするにはリスクが伴うのかもしれない。問答無用と荒々しく左右を振り回すファイターの攻めは、対応を一歩、間違えれば……と、思わせるものはある。加えて、勝てば日本ランキング入りが濃厚とあっては、打馬王那の鼻息も荒いはずだ。
ただし、並みのホープなら、と但し書きをつけなくてはならない。土屋が戦うライト級は長い歴史の中で、3人しか日本人世界チャンピオンが生まれていない、世界的に層の厚い激戦区のひとつだ。そのうちのひとりを育てた田中トレーナーが、その小堀が持っていたものは土屋も持っている、と太鼓判を押すのだ。まだ、試されざる面もある土屋だが、ここが試される舞台にはならないだろう。土屋のボクシングは本来、速戦速決型ではない。1ラウンドでじっくり相手を見極め、タイミングを測ったあとの、2ラウンド以降に要注目だ。 |
(文/船橋真二郎) |
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